
作業用救命衣の重要性について
平成七年二月二十三日放送
船員災害防止協会安全管理士
阿部勇紀
このほど海上保安庁がまとめた平成六年における海難事故発生件数とそれに伴う死亡、行方不明者数はともに、昭和二十六年に海難統計を取り始めて以来最低の数値になりました。
しかし、この中で漁船の海難は平成五年に比べ三隻減少したものの、死亡、行方不明者ともに依然として高い水準を示しています。
ところで、海中転落や海難で漂流し、運悪く死亡してしまう場合、われわれは普通、溺死を連想しがちですが、実際は、死因の大半は体温が三五度以下に下がる体温低下によるといわれています。
通常の衣類を着用して人間が水中で生存できる時間は個人差がありますが、水温零度でわずか十五分、水温が一五度でも六時間未満でしかなく、いかに寒さから身を守るかが生き残るための重要な要件になります。
救命胴衣や作業用救命衣などもこれと非常に関連があります。
つまり、これらの着用により、第一に、着衣を体に密着させるので体温の放出を防げること。
第二に、浮いているため運動をしなくても済むので、エネルギーの消費を少なくし、体温の低下を防げること。
そして第三に、救命胴衣などの本来の役割といえる、意識をなくした場合でも浮いていられることなどです。
さて、自動車事故について語られるとき、よくシートベルトの功罪が話題になります。
「運転者はシートベルトをしていて助かったが、助手席の方はやっていなくて駄目だったそうだ」「いつもうるさく言っていたのに」「普段はやっていたのに、どうして今日に限って」といった会話です。
事実、ベルトの着用により生存率が八〇%以上高まるという厳然たる結果が世界中で報告されています。
海中転落と作業用救命衣の関係も自動車事故とシートベルトの関係によく似ていて、分かっているのになかな
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